議決権集計不適切処理【どういった事象か分かりやすく解説します】

  • 2020年9月27日
  • 2023年10月18日
  • Banker
 
日本経済新聞『三井住友信託銀行は2020年9月24日、受託する株主総会の議決権処理に誤りがあったと発表した。議決権の行使書が期限内に郵送されていたにもかかわらず、集計から外れていた。みずほ信託でも同日、同様の誤りが明らかになっており、両行が受託する計1400社の総会決議で株主の声が適切に反映されない異例の事態が生じている。』

 

三井住友信託銀行とみずほ信託銀行で起きた議決権の不適切集計のニュース。
結構わかりにくいうえに、正直なところ信託銀行に厳しすぎる偏向報道な気がします。
現役銀行員の視点で、なるべくわかりやすく解説します。

 

議決権集計不適切処理【どういった事象か分かりやすく解説】

 

まず、議決権について説明します。
議決権というのは、株式会社の株主総会で審議される議題に対する投票券みたいなものです。
株式を保有していれば、その株式数に応じて投票券の数も増えます。

 

日本では、様々な企業が様々な企業の株式を相互の保有しています。
取引関係上保有しているケースもあれば、純粋に投資として保有しているケースもあります。
ただ、大量の株式を保有すると維持管理コストや手間がかなりかかってしまう等の観点で、信託銀行に株式を預けるケースが多くあります。
信託銀行は企業から株式を預かりますが、株式に付いて回る議決権はあくまでも元来の株式保有者の権利ですので、株主総会への投票券をどう使うかは、元来の株式保有者が指示することになります。

 

日本経済新聞の記事はある程度詳細を書かれていますが、信託銀行も議決権の集計作業等は関係会社に再委託しています。
今回のケースだと、三井住友信託銀行もみずほ信託銀行も、日本株主データサービスという会社に委託していました。
日本株主データサービスは、三井住友信託銀行とみずほ信託銀行がそれぞれ50%ずつ出資する子会社です。
今回のニュースで、同日に両社が揃って会見に至ったのは、再委託先が同じだったから、ということになります。

 

さて、企業は議決権行使の指示を日本株主データサービスに郵送することになります。
当然ながら、郵送には期限があるので、期日までに郵送しなければなりません。
日本株主データサービス側は、期日までに受け取った議決権行使の指示を集計し、実際に代理人として議決権行使を実行します。

 

株主総会は6月下旬に集中します。
日本株主データサービスとしては、放火集中的に郵送物が届いても処理しきれないので、郵便局との間の特約で、通常よりも1日早く郵送物を届くような異例対応をしていました。
これは、限られた人員とコストの中で、委託者(企業のことです)からの要請をさばき切るための手段と言えます。

 

今回判明した事象は、この『1日早く届いた議決権行使の指示』が、『本来の期日に結果的に間に合ってしまっていたこと』が問題となっています。
委託者側は、日本株主データサービスと郵便局の間の特約など知るすべもありません。
本来であれば期日までに届かず、無効になっているはずだった議決権行使の指示なのです。

 

民法は郵送などでの意思表示について、相手への到着時点で効力が発生すると定めているので、結果的に期日に届いたのであれば議決権行使の指示は期日内に受け取ったものとして処理すべきである、ということになります。
そのため、日本株主データサービスの委託先である三井住友信託銀行とみずほ信託銀行は、謝罪会見に追い込まれることになりました。

 

不適切集計の対象となった議決権数は、それぞれの企業の株式数からすれば微々たるもので(期日ギリギリに郵送するなんてことがそもそもそんなに多くはないということです)、株主総会の議決に影響を及ぼすほどの数ではありませんでした。
また、3大信託銀行の一角である三菱UFJ信託銀行が外れているのは、再委託先は日本株主データサービスではないという一点に尽きます。

 

 

果たしてそこまで非難されることなのか

 

あなたが日本株主データサービスの社員だったと想像してみてください。
本来だったら期日に間に合わなかったはずの郵送物が、6月の一定期間の郵便局との特約によって、結果的に期日に間に合って『しまった』議決権。
これって、正当なものとして集計対象にするべきと考えるでしょうか?
それとも、むしろ不当なものとして集計対象から外すべきと考えるでしょうか?

 

民法の細かい知識があれば正当なものとして処理すべきと判断できたかもしれません。
企業としては、法律専門家の目も介して、イレギュラーケースにも法的に耐えうる体制を整えておくべきだとも思います。
まさに今回の謝罪会見は、重箱の隅をつつくようなレベルまで体制を整えておくべきだったのに、そうなっていなかったことに対するものだと思います。

 

誉められたことでは決してないですが、多くのマスコミの記事では『時代の変化に対する「鈍感さ」が際立つ』『少なくとも10年前くらいには従来の慣行を見直すべきだった』などと、少々厳しすぎる論評に思います。
まぁこの事例に限らず、マスコミの姿勢は『他人に厳しく身内に甘く』なので、今更ではありますが…

 

今回のニュースの背景はこんな感じかと思います。
多少なりともわかりやすいと感じていただければ幸いです。

 

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