銀行員にとって人事部はエリートコースか?【昔は花形の登竜門的な存在でしたが…】

 
銀行員でキャリアパスについて悩んでいる人『将来出世して偉くなって、給料をたくさんもらうためには、やっぱり人事部とかの本部企画セクションを希望した方がいいのでしょうか。銀行内でも少数精鋭が集まってるイメージがあるし、異動の面接でも「人事部希望です!」とか積極的に言った方がいいのか悩みます。』

 

こういった疑問にお答えします。

 

この記事の内容

 

 

・銀行における人事部の仕事について
・人事部はエリートコースかどうか

 

 

僕は、メガバンクに勤めていた元銀行員です。
ふたつのメガバンクを経験しており、妻は現役の銀行員をしています。
そのため、一般的な銀行員と比べて、より標準的な銀行員がどんなものであるかをご説明できると思います。

 

さて、銀行の中でも人事部というと結構エリートなイメージがあるかと思います。
多くの社員を抱える一大グループの中で、全社員の情報を一手に引き受け、異動を取り仕切る実権を握っている。
そんな印象が少なからずあるからだと思います。
少数精鋭部隊で仕事内容は謎に包まれ、近寄りがたいため、会社の中でも取り立てて優秀な人が行く部署。
人事部を経験していれば、将来のポストも安泰。
そんな漠然としたイメージを持つ方も多いと思いますが、実際のところどうなのか、解説したいと思います。

 

 

銀行における人事部の仕事について

 

銀行によっても異なります。

 

 異動と人材配置

 

一番理解しやすいところで言うと、毎年決まった時期に発生する人事異動の采配です。
銀行は金融庁傘下となりますが、あまりに長い年月を同じ部署で過ごすと、顧客との間で癒着等が発生する可能性があり、長期滞留を認めないというのが通説になっています。
従って、銀行員にとって異動は避けては通れない運命であり、定期的に発生する人事異動を人事部が会社ベースで取り仕切っています。

 

ただ、人事異動のすべてを人事部が独断と偏見で決められるわけではありません。
人事部は各部署の部長と交渉をします。
例えば以下のような感じです。

 

 

人事部『そちらの甲部署のA君が5年の長期滞留なのでそろそろ異動させないとまずい。A君との人事面談では、彼は営業に行きたいと言っていた。営業○部にちょうど空きが出るので、次のタイミングで異動させたい。』

甲部部長『A君が長期滞留なのは理解しているが、彼がいなくなってしまうとチームの大黒柱がいなくなり、仕事に不都合が生じる。次の世代を育成中だからもう少し待ってほしい。』

 

 

こんな感じです。
こういったやり取りがすべての部署との間で行われ、玉突きで人事異動が決められていきます。
物わかりのいい部長もいれば、頑固で融通の利かない部長もいるので、調整は大変難易度が高く、時間もかかります。
決して殿様商売で楽な仕事ではないのです。

 

 

 

 研修

 

大きい銀行になるほど、研修の体制がしっかりしています。
社員の数が多くなるとどうしても平均値からずれてしまう異分子も発生しがちであり、銀行としてはなるべく社員の品質を一定以上にしたいから、研修で底上げを図るわけです。
研修にも、新入社員研修、若手研修、中堅研修、海外赴任研修、黄昏研修、英語研修、コンプライアンス研修、などなど本当に様々なカリキュラムが用意されています。

 

これらの研修のとりまとめを人事部が行います。
研修のとりまとめと言っても楽な仕事ではありません。
一つの研修を最後まで完遂するのに、だいたい以下のようなプロセスが必要になるでしょう。

 

 

・どんな研修が必要か検討
・研修のカリキュラムを決める
・研修のための講師を雇う
・研修の参加者を募集、あるいは指名する
・オブザーバーとして研修に参加する
・次回に向けて改善点などを探る

 

 

こういった作業を、同時に何個も抱えるわけです。
参加者を指名する場合には、やはり各部署の部長や次長と交渉が必要になります。
人事部として参加してほしい社員が、必ずしも仕事の都合で研修に参加できるとは限りません。
研修の期間が長い場合などは、仕事との兼ね合いで部長や次長が拒否するケースもあります。

 

 

 人事評価

 

半年ごとか1年ごとに、人事の評価が行われます。
ボーナスや昇格、昇給などに影響するものであり、社員にとっては一大事です。
100人の社員がいたら、上から順番に序列をつける作業だと考えてもらえればいいかと思います。

 

この人事評価も、なかなか大変な心労を抱えます。
銀行によっても細かいところは異なる可能性がありますが、まず人事評価の第一段階は各部署が行います。
各部署が、部署内の社員一人一人に点数をつけて、部署内の序列を人事部に『案』として提出します。
しかし、部署を跨っての横断的な評価をしなければ不公平になってしまうので、各部署の評価をすべて集めたうえで人事部が全社員横ぐしを刺した序列を決めるわけです。

 

これだけ聞くと、権力を持って好き放題できる高値の見物、のような印象をもつかもしれません。
しかし、変な評価をつけると各部署の部長から問い合わせが来ます。

 

 

甲部部長『うちの部署のB君が今年昇格しないのに、隣の部署の同期のCさんは昇格になっている。どういうことだ。説明しろ。』

 

 

納得感のある回答をしなければなりませんから、大変です。
適当な回答ではその部長から怪訝な目で見られ、人事異動の交渉などにも影響が出かねず、今後の仕事に支障をきたす可能性もあります。

 

 

 福利厚生などの事務作業

 

その他、社員に関することは一手に引き受けることになります。
例えば、社員の結婚、休暇取得、年末調整、福利厚生利用、勤怠管理、時間外労働協定、資格取得登録、などなど様々な事象において、社員からの照会・申請に対応しなければなりません。

 

ただ、これらの業務は極めて事務的なものであり、社員というよりはスタッフさんや一般職が担当することが多いというのも事実です。
総合職が担当するセクションの仕事ではないですね。
一般職と総合職の違いについては、以下の記事もご参照ください。

 

 

銀行員パパブログ

  バリバリ働きたい女性サラリーマン『男女関係なく、銀行でバリバリ働いて給料を稼ぎたいし、昇進もしていきたい。でも男性社…

 

 

人事部はエリートコースか

 

昔はそういう面もありましたが、現在はそうでもないと思います。

 

 少数の意味

 

人事部は確かに少数だと思います。
人事部に限らず、本部セクション(経営企画、主計、コンプラ、法務、管理など)は基本的に少数です。
なぜかと言うと、本部は金を稼ぐことのできない、『コストセクション』だからです。

 

銀行で収益を上げるのは営業や運用などのセクションであり、銀行全体としてはそれらの部署に人員を厚く配置して収益を高めようとします。
収益を上げなければ株主に怒られてしまうからです。
収益をあげることのないコストセクションに多くの人員を配置する余裕がないのです。

 

また、人事部などのコストセクションはたいていの場合は裁量労働制になっています。
つまり、仕事は大量にあって人員は少ないけれど、いくらでも働けるんだからなんとかなるでしょ?という発想です。
昔に比べるとかなり労働環境はよくなったと思いますが、やはりコストセクションの十字架が重くのしかかる傾向は残っていると思います。

 

従って、こうした環境でも文句を言わずに働ける人材が人事部に配置されやすいと言えます。
少数であっても精鋭かどうかは何とも言えず、愚直に文句を言わず上手く仕事をこなす人が適材適所としてあてがわれるのだと思います。
こうした人が将来的にマネジメントに適しているかどうか、組織を引っ張る存在になりうるかどうかは別の問題なのです。

 

 

 昔と今

 

確かに2000年過ぎくらいまでは、人事部や経営企画部は花形部署という印象がありました。
実際、バランス感のある賢い人材が人事部に行っていたと思います。
そうした印象が社内に充満しているので、人事部に異動が決まると周りも『おめでとう!』という声をかけるわけです。
異動になった人も、『人事部ってことは期待されてるんだ。頑張ろう。』と思うし、正のスパイラルでした。
人事部着任後は激務に襲われながらも、不確実な『将来の安泰』を餌にぶら下げられて、仕事に没頭します。

 

実際、人事部にいると各部署の部長や次長とコンタクトを取ることが少なくありません。
その意味で、自分を知ってもらい、売り込むチャンスは多いのだと思います。
『あいつは出来るやつだ』と思う上席が増えると、仕事がやりやすくなったり、評価の面でプラスに働くこともあり得ます。

 

現在では、人事部だから花形、という印象は行内で薄れつつあります。
人事部異動だから優秀って評価だね、とは言われません。
むしろ、『大変だね、頑張って。』と同情されることが多くなってきたような気がします。

 

 

 現代のエリートコース

 

昔は役員の略歴書を見ると、だいたい人事部や経営企画部出身者が多かったと思います。
なんといっても人事部や経営企画部は激務が続き、健康と引き換えに銀行のために働くわけです。
裁量労働制なのでどれだけ長い時間働いても給料は一定です。
そうした苦労に報いるために部長や役員というポストをあてがわれていた、という面が少なからずあると思います。
公務員や官僚が低い給料で働き続け、最後には天下りや高い年金で報われる、というのと構造は見ているかもしれません。

 

しかし、働き方改革も進み、人事部や経営企画部と言えど、毎日12時過ぎまで働く、等という体制は取れなくなってきました。
社員の健康管理なども指標の一つになっているし、働きやすい銀行でなければ優秀な人材を獲得するのも難しい環境になっています。
人手不足の中で極端に劣悪なセクションが少しでもあるとレピュテーションリスクにつながります。
そのため、人事部の働きやすさも改善され、それが逆に組織に対する貢献度を低下させ、労いの意味でのポストに繋がりにくくなっている面があります。

 

3メガバンクの社長や役員の略歴書を見ても、今は人事部や経営企画部出身者が少なくなっているのが見て取れます。
フィンテックの台頭もあり、システム畑の銀行員が出世したり、グローバル化の流れから海外勤務経験者が出世したりすることが多くなっています。
また、前述したとおり、銀行は収益を稼いでなんぼなところがあるので、優秀と評価された銀行員は営業や運用、投資銀行業務のフロントセクションに配置されるケースが多いような気がします。

 

 

 まとめ

 

いかがだったでしょうか。
銀行員にとって人事部はエリートコースと言えるのかどうか、元銀行員の視点でまとめてみました。
もちろん、銀行によっても方針が異なる場合がありますので、一つの参考としてご覧いただければ幸いです。

 

ただ、やはり僕が銀行員になった2000年代と現在(2020年代)を比べると、明らかに人事部のステータスは下がっていると思わざるを得ません。
入社当初、同期が人事部に異動と聞いたときは、『あいつ優秀って評価されてるんだな~』などと思ったものですが、銀行員生活後半はむしろ『人事部なんてかわいそうに…』と同情してしまいました。
労働環境が改善したとはいえ、他部署に比べると長時間残業だし、各部署の部長や次長などのめんどくさい人と調整しなければならないのも億劫だし、裁量労働で給料は変わらないし、どの項目をとっても平均以下、という感覚でした。

 

と、悪いことばかり言いましたが、そうはいってもダメな社員が人事部に行くことはありません。
社員の個人情報を一手に引き受けるわけですから、ある程度信頼できる人材しか人事部に行くことは無いと思います。
もし人事部にアサインされた場合は、ネガティブにならず頑張ってください。

 

 

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